I do not detach you. 



 「うわ〜〜〜vvきれ〜い!」
 満天の星空を見上げ、蘭が感嘆の声を上げた。
「だろ?ここの景色、絶対蘭ちゃんに見せたかったんだ」
 蘭の嬉しそうな横顔に見惚れながら、快斗が言った。
 
 都心からちょっと離れた小高い山の上のこの場所を見つけたとき、真っ先に浮かんだのは蘭の顔だっ
た。なかなか会えない愛しい人。七夕のこの日、ここへ連れてきて一緒に天の川を見よう。
 快斗はそう心に決めていたのだ。
「ありがとう、快斗くん」
 そう言って、蘭は快斗を見て微笑んだ。それは、いつもと変わらない笑顔、に見えたが・・・
「・・・蘭ちゃん・・・?」
「え?」
「何か、あった・・・?」
 心配そうに自分の顔を覗き込んでくる快斗の視線に、蘭ははっとして思わず視線をそらせてしまった。
「蘭ちゃん!」
 快斗の手が、蘭の細い肩を掴む。蘭の肩が、微かに震えた。
「・・・何があった・・・?俺には、言えないこと・・・?」
 蘭を見つめる、快斗の真剣な眼差し。
 その眼差しに耐え切れなくなったかのように、蘭の瞳から一筋の涙が零れた。
「蘭ちゃん・・・」
「ご・・・めんなさ・・・」
「・・・どういうこと・・・?」
 快斗の胸に、いやな予感が広がる。
 蘭は、俯いたまま、涙を流している。
「言ってくれよ・・・。何があったんだ・・・?」
 悲しみをにじませたその声に、蘭はゆっくりと顔を上げ、快斗を見つめた。
「新一が・・・帰って来たの・・・」
「!!」
 その言葉に、快斗はまるで鈍器で頭を殴られたような衝撃を受けた。
 工藤新一。快斗も良く知っている、高校生名探偵だ。そして、蘭の幼馴染でもある・・・。
 蘭が、ずっと新一のことを待っていたのは知っている。何ヶ月も戻らない新一を、ひたすら待ちつづ
けていた蘭。その新一が、帰ってきた・・・・・?
「わたし・・・もう、快斗くんには会えない・・・」
 続けて蘭の口から紡ぎだされた台詞に、快斗は再びショックを受ける。
「だから、今日でもう・・・・」
 最後。そう言おうとした蘭の肩をぐいっと引き寄せ、その唇を奪った。
「!!」
 驚いて目を見開く蘭。
 唇を貪るような激しい口付けに、蘭の頭の中は真っ白だ。
 今までの、軽く触れるだけのキスとは違う、無理やり奪うかのようなキス・・・
「・・・ふっ・・・・」
 息苦しさに、顔を歪める蘭を見て、漸くその唇を解放する。
「はあ・・・」
 息を整えようと、荒い呼吸をしている蘭を見つめながら、快斗は強い口調で言い放った。
「冗談じゃねえ」
 今までに聞いたことのない快斗の声に、蘭は驚いてその瞳を見開く。
「快斗くん・・・?」
「あいつが帰ってきたから、俺はもう用無しってわけ?蘭ちゃんにとって、俺は単なるあいつの身代わ
りだったのかよ?んなこと・・・ゼッテー認めない!」
 その言葉に、蘭は悲しげに首を振った。
「違う・・・!快斗くんは、身代わりなんかじゃない・・・!」
「じゃあ、なんなんだよ?」
「・・・・自信、ないの」
 辛そうに顔を伏せた蘭を、今度は快斗が驚いて見つめる。
「え・・・?」
「隠しとおす、自信・・・。新一は・・・探偵よ?わたしがどんなに隠そうとしたって、きっといつか
は分かっちゃう・・・!そしたら・・・快斗くんは、捕まっちゃうのよ・・・?」
「!」
 快斗のもう一つの顔。それは、世界的に有名な大泥棒、怪盗キッドだ。
 怪盗キッドとして、新一と対決したこともある。
 そして、蘭は快斗のもう一つの顔を知っているのだ。


 1年に1度しか会うことの出来ない織姫と彦星。
 昔は、そんな2人をかわいそうだと思った。 
 自分だったら耐えられないと・・・自分と新一を重ね合わせてみたりした。
 でも、今は・・・
 羨ましい、とさえ思える。
 1年にたった1度でも愛しい人に会える。
 そんな2人が、羨ましいと・・・
 

「わたし・・・快斗くんが捕まるところなんて、見たくない!そんなことになるくらいなら・・・」
 もう、会わないほうが良い。
 最後の言葉を言えず、俯いたまま涙を流しつづける蘭の肩を、今度は優しく抱きしめた。
「快斗く・・・」
「・・・・・大丈夫だよ・・・・・」
「え・・・・・」
「俺は、捕まらない・・・」
 快斗の台詞に、蘭は顔を上げる。
「でも・・・!」
「蘭ちゃんは、俺のことが信じられない?」
「そんなこと、ない!」
「だったら・・・信じててよ。俺は、捕まらない。絶対にね」
 その瞳は、自信に満ち溢れていた。
「でも・・・そのためには、絶対なくてはならないものがあるんだけどね」
「え・・・・・」
「蘭ちゃんだったら・・・きっとそれを俺にくれると思うんだけど?」
 蘭は、きょとんとその瞳を瞬かせる。
「わ、わたしが?快斗くんに?な、なにを・・・?」
「決まってるじゃん。俺がほしいのは、これ・・・」
 そう言って快斗は、今度は優しく、触れるだけのキスをした。
 蘭は、相変らずきょとんと快斗を見つめている。
 そんな蘭を、くすくす笑いながら抱きしめる快斗。
「俺に必要なのは、蘭ちゃんだよ・・・。蘭ちゃんが側にいてくれれば、俺はなんだって出来る」
「快斗くん・・・でも・・・」
「今さら、離れるなんて考えられないよ。俺には、蘭ちゃんしかいない・・・。俺は・・・彦星みたい
に我慢強くないんだ。蘭ちゃんと会えなくなったら、きっと生きていけないよ」
「そんなこと・・・」
「ほんとだぜ。だから・・・側にいてくれよ。それとも、俺のこと、もう嫌いになった?」
 その言葉に、蘭は勢いよく首を横に振った。
「嫌いになんか、なるはずない!わたしは快斗くんが・・・!」
 快斗は、蘭の顔を両手で包み込み、上を向かせると優しくその瞳を見つめた。
「俺が、何・・・?」
「快斗くんが・・・好き・・・」
 潤んだ瞳で、そう告げる蘭に、快斗は心底嬉しそうに微笑んだ。
「俺も、蘭ちゃんが大好きだよ。だから、一緒にいよう?な・・・?」
 こつんとおでこをぶつけ、唇が触れ合うくらいの至近距離でそう囁かれ、蘭は頬を赤らめながらもこ
くりと頷いた。
 そして、どちらからともなくまたキスをする。
 何度も、啄ばむように触れ合うだけのキスを繰り返し、繰り返し・・・。
 

 空には、満天の星。
 今年は珍しく晴れて、天の川を渡り会うことが出来たであろう恋人同士が、地上の仲睦まじい恋人同
士を、どこか羨ましげに見つめているようでもあった・・・。







                                                                                     fin.

 七夕に、日記でUPするつもりだったお話です。
 すっかり遅れてしまいましたが・・・どうでしょうね?
 怒る快斗と、いちゃいちゃする2人が書きたくて、こんな話になってしまいました。
 感想などありましたら、bbsのほうでお待ちしております♪