今年は3人で?


 「ねえ、新一、てっぺんの星つけて」
「O.K.」
 新一が脚立に乗ってツリーのてっぺんに銀色の星をつけると、見事なクリスマスツリーの飾り付けが
完成した。
「すっごく綺麗!ね、新一!」
 自分の何倍もの高さのツリーを見上げ、蘭が瞳を輝かせながら言う。
 そんな小さな姿の蘭をいとおしそうに見つめながら、新一は優しい笑みを作る。
 蘭が、なぞの組織の作った薬を飲まされ、小さな体になってしまってからと言うもの、2人の距離は
以前よりもずっと近いものになったようだった。
「今日は、警察からの呼び出しは断っといたからな」
「え、ほんと?」
「ああ。だから、2人でゆっくりしような」
 新一の言葉に、蘭の頬が微かにピンク色に染まり、大きな瞳は嬉しそうにきらきらと輝いた。
「じゃ、がんばっておいしいもの作るね!」
「ああ、じゃあ―――」
 と、新一が何か言いかけたとき、部屋の隅の電話が鳴り出した。
 蘭の顔が、一瞬不安の色を浮かべる。
 新一は、そんな蘭を安心させるように微笑むと、
「大丈夫だって。今日は、絶対にどこにもいかねえよ」
 と言って、受話器を取った。
「はい、工藤―――」
 と新一が言いかけたとき、通話口から離れていても聞こえるような、明るい大阪弁が聞こえてきた。
『よおっ、工藤!元気しとるかあ!?』
 その声が聞こえた途端、受話器を戻そうとする新一。と、それが見えたかのように、
『待て待て!きんなや!』
 という声。
 きょとんとして新一の様子を見ている蘭にちらりと視線を投げ、溜息をひとつつき、再度受話器を耳
に当てる。
「―――んだよ」
『なんや、気ィのない声出してからに。なあ、今沙羅ちゃんはいるんか?』
 沙羅と言うのは、蘭の仮の名前である。平次とは以前ある事件で新一が蘭を連れて大阪に行ったとき
に知り合ったのだが、その時に平次は新一と一緒にいた蘭をいたく気に入り、何かと理由をつけては東
京に来て、蘭に会って行くのだった。新一がそんな平次を快く思わないのは当然のことで―――
「―――いたら、どうだって言うんだよ?」
『いるんやな?したら、今からそっちに行くから』
「はァ?今からァ?」
 新一が思わず声をあげると、蘭が側に来て、新一を見上げた。
「どうしたの?電話、服部君でしょう?服部君、なんだって?」
「―――今から来るとか、言ってやがる」
「え、ほんと?じゃ、お料理多めに作んなきゃ!作る前に分かって良かったァ!」
 パッと笑顔になってそう言った蘭に、新一が慌てて、
「ちょ、待てよ、今日はせっかく―――」
 2人きりのクリスマスなのに―――と言いかけたが、電話の向こうの声に遮られる。
『お、今の声沙羅ちゃんやろォ?何や、お料理作ってくれるんか?楽しみやなあ!』
「お、おいっ」
『ほなら急いでそっち行くわ!』
 ガチャン!と勢い良く電話を切られ、受話器から耳を離す新一。
「―――っ、あのやろ・・・おい、蘭―――」
 と振り向き、当の蘭がもう側にいないことに気付く。早速料理の準備をしに、キッチンへと行ってし
まったようだった。
「ったくゥ。おーい、ら―――」
 と、キッチンへ行こうとしたその時―――

『ピンポーーーン』

「・・・・・」
 まさか、もう・・・?
 いやな予感にその場から動けないでいると、さらに追い討ちのように聞き覚えのある声が・・・
「お―――い、工藤!沙羅ちゃーんvvおるんやろお?開けてくれや!」
 その声に、キッチンへ行っていた蘭がひょっこりと顔を出す。
「今の、服部君!?もう来たの!?」
「・・・らしいな。あいつ、この家の前から電話してきたな」
 深い溜息をつき、仕方なく玄関に向かう。
 ドアを開けると、満面の笑みを浮かべた服部平次がそこに立っていた・・・。
「よお!久しぶりやなあ」
「・・・おめえな・・・」
 新一が呆れ顔で文句のひとつも言ってやろうと口を開く。と、その横から、蘭がひょいと顔を出した。
 途端に平次の顔がパッと嬉しさに輝き、新一を押しのけ、身を屈めて蘭にずいっと近寄った。
「沙羅ちゃん!元気しとったかあ?1ヶ月も会えんで、寂しかったんやでv」
「あ・・・う、うん。は・・・平次お兄ちゃんも、元気だった?」
「もっちろんや」
「・・・おい」
 危うく、2人の世界に入ろうとするのを、新一の低い声が遮った。
「なんや、工藤。今俺は沙羅ちゃんと話しとるんやで」
「てめ・・・大体なんだって今日、ここにいるんだよ?」
「沙羅ちゃんに会いに来たに決まっとるやないか」
 さらっと言ってのける平次に、新一の眉がなおのことつり上がる。
「な・・・っ」
「せっかくのクリスマスや。かわいい沙羅ちゃんと一緒に過ごしたい思ってなあ」
「おめえな―――」
 新一の額に青筋が浮かび・・・まずい、と思った蘭が、2人の間に入る。
「ね、ねえ、とりあえず、中に入ろうよ。ここ、寒いし。ね?」
 まさに、天使の微笑。2人はおとなしく部屋の中に入ったのだった。


「で、今日は沙羅ちゃんがお料理作ってくれるんか?楽しみやなあ。沙羅ちゃんの料理はほんまおいし
いからなあ」
「えへへ・・・。ありがとう、平次お兄ちゃん」
「なんか手伝って欲しいことあったら言ってな。何でもするで」
「おめえはそこに座ってろ。手伝いなら俺がする」
 間に割って入る新一。2人の間に、火花が散っていた。
「なんや、遠慮せんでもええんやで」
 平次が目を細めつつ、それでも笑みを浮かべながら言う。と、蘭はそんな空気を知ってか知らずか無
邪気に微笑みながら、
「わたしは1人で大丈夫だよv平次お兄ちゃんはお客様なんだからここにいて。新一お兄ちゃんも、平
次お兄ちゃんの相手しててね」
 と言ったのだった・・・。


 蘭が行ってしまって、男2人無言で向き合う。
 ―――せっかくのクリスマスだってのに、なんだってこいつと2人で向き合ってなきゃいけねえんだ
よ。
 新一が、イライラと視線を彷徨わせていると、平次が新一を見て、にやりと笑った。
「―――何がおかしい?」
「いいや、別に。事件に向こうてるときと、別人みたいやおもおてな」
「そっちこそ」
「そりゃそうや。なんたって沙羅ちゃんとおるんやからな。強面の殺人犯なんかとはわけが違うわな」
 真面目な顔で言う平次に、新一は半分呆れながらも馬鹿正直とも言える平次の素直さに感心していた。
「俺はおまえみたいなむっつりスケベとは違うからな」
「な・・・!おめえな―――」
「そうや!工藤、おまえお隣さんいうのを良いことに、沙羅ちゃんを1人占めしてるやろ!なんや変な
ことしとるんちゃうやろなあ?」
「するわけねえだろ!?なんだよ、変なことって!」
「変なことは変なことや。なんせ沙羅ちゃんはかわいいからな。おまえがいつ変な気ィ起こさんとも限
らんからな」
「あのなあ―――」
 さすがに、新一が頭に来て文句を言おうとしたところへ、蘭がひょいと顔を出した。
「ね、平次お兄ちゃん、お昼ごはん食べてきた?」
 途端に、平次の顔がだらしなく緩む。
「いや、まだやけど」
「ほんと?良かった。あのね、今サンドウィッチ作ったから、持って来るね」
「ほんま?そりゃあうれしいなあ」
「飲み物は、コーヒーでいいかなあ?」
「ああ、なんでもええで。俺もてつだおか?」
「大丈夫。すぐ持ってくるからね」
 そう言ってにっこり笑うと、またキッチンへと戻る。そんな蘭をとろけそうな顔で見ていた平次。
「ほんま、ええ子やなあ。ええ嫁さんになるで。もちろん相手は俺やけどな」
 その言葉に、当然新一の顔は引き攣る。
「おめえ、あんまり調子に乗ってんじゃねえぞ」
「お、何や、やるつもりか?相手になるで」
 2人の間に火花が散る中、蘭がコーヒーを乗せた盆を手に、チョコチョコとやってきた。その姿を見
て、2人は同時に蘭に駆け寄る。
「ら・・・沙羅!俺が持つから貸せよ」
「こっちは俺が持つからええよ。工藤、おまえサンドウィッチを持ってきい!」
「ああ、わかった」
 新一がキッチンへ行ってしまうと、平次はにやりと笑うと沙羅の持っていた盆を受け取り、テーブル
の上へと置いた。
「ありがとう、平次お兄ちゃん」
「礼なんてええよ。それより、今日は俺、沙羅ちゃんにクリスマスプレゼントを持ってきたんやで」
「え、わたしに?」
「そうや。ほら、これ」
 といって、平次がブルゾンのポケットから、小さなピンクの袋を出した。
「で、でも、悪いよ。わたし、何も用意してないのに・・・」
 蘭が困った顔をして断ろうとするのを、平次は手で軽く制して、蘭の手にその袋を持たせた。
「ええんやって。今日は俺が勝手に来たんやし。ほら、開けてみい」
 にっこりと満面の笑みでそう言われ、蘭は戸惑いながらもその袋を開けてみた。
 中から出てきたのは、ベロア素材で出来た、鮮やかな真紅のリボンだった。蘭が、大きく瞳を見開く。
「うわあ、きれい・・・」
「せやろ?絶対沙羅ちゃんに似合うと思うんや。こんなん、俺が持っててもしゃあないし。沙羅ちゃん
に貰ってもらうんが、1番なんや。な?」
  平次のやや強引なせりふに苦笑いしつつも、蘭はそれを受け取ることにした。
 なんとなく、憎めない人間なのだ。
「ありがとう、平次お兄ちゃん。今度、お礼するね」
「あ、ほなら、俺からリクエストしてもええか?」
「え・・・う、うん、いいけど・・・」
 蘭の言葉を聞くと、平次はにやりと笑い、身を屈めると蘭の目の前に自分の横顔を出して見せた。
「え・・・・・?」
「ここに、ちゅvとしてほしいんやけどなあ」
 途端に蘭の顔が真っ赤になる。
「で、で、でも―――」
「早くせな、工藤のやつが戻ってきてまう。ほら、早う!」
 平次に急かされ、蘭は何がなんだかわからないうちに、ええい!と平次の頬にチュッとキスしてしま
った。と、その時―――
「おい!?」
 はっと我に帰り、振り向くと真っ青な顔をしてこちらを睨んでいる新一がいたのだった・・・。


 夜になり、蘭の作った料理もテーブルに並び、3人でのクリスマスパーティが始まった。
 平次は相変わらず上機嫌。新一は不貞腐れ、蘭は・・・
「沙羅ちゃんはまだなんか?」
「すぐに来るだろ。着替えにいっただけなんだからよ。それよりも、また今度あんな事したら出入り禁
止だかんな」
 と言って、新一は平次を睨んだ。
 あんなこと、と言うのはもちろんキスのことだ。蘭が平次にキスしているのを見て、烈火のごとく怒
った新一。蘭に、平次からプレゼントを貰ったお礼なのだと説明されても、当然納得はいかない。が、
泣き出しそうな蘭の顔を見て、しぶしぶ許すことにしたのだ。それでも面白くないことに変わりはない
。特に新一が怒ってもものともしない平次の態度には、どうにも腹が立って仕方がないのだ。
「なんや、怖い顔して。まだおこっとんのかいな。心の狭いやっちゃなあ。こっちは沙羅ちゃんにたま
〜にしか会えんのやから、あのくらいええや無いか」
 相変わらずな平次に、溜息をつく。と、そこへ玄関の開く音が聞こえてきた。
「お、沙羅ちゃんが帰って来たんやな」
 2人同時に入り口のほうを見る。
「お待たせしてごめんね」
 そう言って入って来た蘭は・・・。
 髪には、平次に貰った真紅のリボンとその色に合わせた真っ赤なドレス。そして唇にはちょっと濃い
目のルージュをひいていた。今の蘭にはちょっと背伸びしている様にも思われるそれが、ドレスとリボ
ンの色に合ってとてもおしゃまに見えていた。
 あまりの可愛らしさに、2人とも暫し呆然と蘭を見つめていた。
 口をぽかんと開け、無言で蘭を見つめる2人を見て、蘭は首を傾げた。
「2人とも、どうかした?―――あの、わたしの格好、変?」
 ―――やっぱり口紅はやめたほうが良かったかなあ。
 なんとなく不安げな表情になってしまった蘭に、2人ははっとして我に帰る。
「変なわけ無いやろ!?ごっつう似合っとるわ!なあ、工藤!」
「あ、ああ」
「ほんと?」
 ちょっと頬を染めて嬉しそうに微笑む蘭が、たまらなくかわいかった。
 
 3人で席につき、蘭が腕を振るった料理を食べ始める。
 体が小さくなっても、料理の腕は変わらず見事なものだった。平次にべたべたに褒められ、少々困惑
しながらも、とても嬉しそうな蘭。平次のことは気にいらないものの、蘭の可愛らしさと料理のおいし
さに新一の気持ちも和らぎ、時間は和やかに過ぎていった。
 そして料理のあと、クリスマスケーキも3人で食べ、時間はあっという間に過ぎてゆき・・・


 「・・・どうすんだよ、こいつ・・・」
「どうするって言ったって・・・」
 2人が顔を見合わせ、同時に溜息をつく。
 ソファには、なぜか熟睡状態の平次が横たわっていた・・・。
「疲れてたのかな?」
「シャンパンに酔ったんじゃね―か?」
「え、あのシャンパン、ノンアルコールじゃなかったの?」
「ほんのちょっと、入ってんだよ。っつってもジュースみてえなもんだし、普通はあんくらいで酔っぱ
らわねーけどな」
 と、新一が呆れたように肩をすくめる。
「じゃ、やっぱり疲れてるんだよ。向こうで、忙しかったんじゃない?」
 確かに、2週と空けず蘭に会いに来ていた平次が、ここ1ヶ月はまるきり音沙汰無しだったのだ。大
阪のほうで、ちょっとした難事件があったことは、新一も知っていた。こっちに来てから、そのことに
は一言も触れていなかったが、おそらくその事件が思いのほか大変なものだったのだろう。
「ね、寝室に運んであげようよ」
 と、蘭が言うと新一がいやそうな顔をする。
「おい、ここに奴を泊めんのか?」
「だって、起こすのかわいそうじゃない。どうせ明日は休みなんだし。いいでしょう?」
 蘭に上目遣いでお願いされ、新一が断れるわけがない。
 新一は仕方なく平次を担ぎ、来客用の部屋へ連れて行ったのだった。
「で、おめえはどうすんだ?」
 再びリビングに戻り、新一が聞く。
「どうするって?」
「今日は、帰るのか?」
「今日は・・・博士が、泊まってきても良いとは言ってくれたけど・・・」
「けど?」
「でも、服部君が・・・」
「服部がいるとまずいことでもあんのか?」
「そうじゃないけど」
「俺、やだぜ?せっかくのクリスマスをあいつと2人で迎えるなんて」
 心底いやそうな顔をする新一に、蘭は一瞬きょとんとしてから、ぷっと噴出した。
「笑うなよ」
「ごめ・・・。新一ってば、ほんとにいやそうな顔するんだもん。服部君がかわいそうだよ?」
「かわいそうじゃねえよ」
 まだくすくすと笑いつづけている蘭を横目で睨み、新一はふと手を伸ばして蘭の髪に触れた。
「・・・蘭」
 低く、甘さを含んだ声に、蘭はドキッとして笑うのをやめた。
「今日、泊まって行くだろ?」
「あ、あの・・・」
「泊まって、いくだろ?」
 顔を寄せ、耳元で囁かれ、蘭はポ―っとなりながらこくりと頷いた。
 新一は、蘭の頬に軽くキスをするとひょいと蘭の体を抱き上げた。
「し、新一」
「・・・だめって言っても、聞かないぜ?今日は散々邪魔されてっからな」
 にやりといたずらっぽい目で見つめられ、蘭の顔が赤く染まる。
 新一は蘭を抱っこしながら、階段を上っていった。
 そして、自分の部屋へ入ろうとしたその時―――
「何してんねん!工藤っ」
 平次が、客間の前で腕を組んで、こちらを睨みつけていたのだった・・・。
「服部、おめえ・・・」
「沙羅ちゃんを連れてどこ行くんや?まさか、おまえの部屋に連れてって、一緒に寝よう思ってるんち
ゃうやろなあ」
「寝てたんじゃねえのかよ・・・」
 新一ががっくりと肩を落とす。平次はにこにこしながら2人の側へ来た。
「ああ、なんや、ちょっと寝たらえらいすっきりしてしもうたわ。んで、ちょっと小腹空いてんねんけ
ど、残りもんでええから、何かあるかな」
「あ、う、うん。まだお料理残ってるから・・・。じゃ、あっためなおして食べる?」
「おお。沙羅ちゃんやってくれるんか?」
「うん、良いけど・・・」
「そりゃええ。ほんならいこか」
 平次はそう言うと、新一の腕の中からひょいと蘭を抱えあげると呆然としている新一を置き去りにし
て、さっさと階段を下りていったのだった。
「―――お、おいっ、ちょっと待てって!」
 慌てて後を追ってくる新一。
 蘭は、にこにこと楽しそうな平次の腕の中で、どうにも困ってしまったのだった・・・。



 新ちび蘭←平です♪どうでしょう?クリスマスに間に合うようにとちょっと慌てて書いたので、どた
ばたになってしまいましたが・・・。とりあえず平次を書きたかったんですが。関西弁、難しいですね。
すっごく変だと思うんですけど、ご勘弁を×××